名古屋高等裁判所 昭和26年(う)242号 判決
第一、原判決は被告人は昭和二十五年七月二十七日夜九時頃清水愛子を名古屋市南区呼続町池田三十二番地先道路上に連れ出し二、三言葉を交す中同人に対する憤懣一時に発し矢庭に所携のジヤツクナイフを以て同人に斬り付け因て同人に対し長さ約十糎、深さ約一糎半乃至二糎半の多量出血を伴う鼻根部左顔面左下顎隅部切創(全治迄約三週間)を与へたとの事実を認定し之を傷害罪に問擬したこと及び被告人が清水愛子に対し判示の様な犯行に出た動機は被告人は昭和二十二年六月頃給仕婦をしていた右愛子を身請して之と内縁関係を結び同棲していたが昭和二十四年六月頃生計が苦しくなつたので別居しながら関係を継続していたところ、愛子は昭和二十五年五月末頃から大橋三郎と関係を結んでいることを知るに至り之を懊悩した結果、前記犯行当夜右愛子を説得してその反省を求めようと考へ同人を判示犯行現場に連れ出したものであることは何れも判文上明かである。又被告人は原審公判廷の供述及検察官に対する供述に於て前記現場に於て以前の愛子の気持に引戻すべく唯愛子を脅してやる積りでジヤツクナイフを二、三回振つたところ夜中のことであり、当夜酒に相当銘酊していたため其意思に反して愛子を傷けるに至つたのであると弁解していること所論の通りである。而して傷害罪は暴行罪の加重結果犯であつて、暴行に依り傷害の結果が発生すれば之に依り直ちに傷害罪が成立し此場合暴行の認識さへあれば傷害の結果の認識を必要としないし傷害の結果が過失に基いても構はないこと謂うを俟たないのである。然れば本件に於て愛子の気持を以前の気持に引戻すため愛子を脅す積りでジヤツクナイフを二、三回振つたとの被告人の弁解が其の通りの事実であつたとしても、被告人の右行為は明かに愛子に対する暴行行為であり、該行為についての認識あることも極めて明瞭であるから、被告人の本件行為は愛子に対する暴行の結果同人に対し判示傷害を加へたもので傷害罪を構成すること毫も疑を容れないのである、其他記録を精査するも原判決には何等所論のような事実誤認はないから論旨は理由がない。